個の主体性を覚醒させる――中外製薬の新人事制度改革
キャリアは会社から与えられるものではない。
社員が自ら創る時代へ

中外製薬株式会社

2026/03

研究開発型製薬企業の中外製薬様は、世界で戦うトップイノベーターを目指して、人事制度の抜本改革に踏み切りました。その中核にあるのが、キャリアの主導権を会社から社員個人へと移す「キャリア自律」の考え方であり、2025年に導入した新人事制度の施策の一つが、異動を原則手挙げ方式にする「ジョブポスティング」制度です。そこで、ヒューマンシステムの「トレジャーキャリア」を活用した「ODYSSEY(オデッセイ)」の導入に至りました。

本記事では、制度改革に至った課題感、約2,000ポジションを可視化するジョブポスティング基盤「ODYSSEY」導入の背景、そして導入後に起きた組織・マネジメントの変化について、人事部長の髙田氏、人事推進グループの時田氏、上田氏へ話を伺いました。

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    髙田 雄介 氏

    中外製薬株式会社 人事部長

    1996年入社。営業本部MRを6年経験。 国際本部にて4年の欧州駐在の後、関節リウマチ治療薬・アクテムラのビジネスリーダーとしてマーケティング活動に従事。2016年から早期臨床開発ステージの製品評価でマネジャーを経験し、2022年より人事部企画グループマネジャーを経て、2023年から現職。

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    時田 祐輔 氏

    中外製薬株式会社 人事部 人事推進グループマネージャー

    新卒で広報IR部に配属。決算発表資料やQ&A資料の作成、投資家対応などのIR業務を経て2016年に人事部に異動。人事制度企画・設計・運用・浸透などの業務を主に従事。2022年より現職。関係会社も含めた人財マネジメント改革を進めている。

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    上田 裕樹 氏

    中外製薬株式会社 人事部 人事推進グループ

    新卒で国内大手食品会社に入社、人事部で制度企画・運用を経験。その後、外資系コンサルティングファームにて人事領域を中心とした業務改善やBPO支援などに従事。2022年より現職にて、全社横断的な人事制度改革、主にジョブポスティング制度の導入をリード。

「世界で勝つ」ために、人事制度を根本から見直す

Q:貴社の事業概要と、人事制度改革の背景について教えてください。

中外製薬株式会社 人事部長:髙田 氏(以下、髙田氏):弊社は、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新たな価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」というミッションを掲げています。

2021年には、2030年を見据えた成長戦略「TOP I 2030」を策定し、ヘルスケア産業におけるトップイノベーターを目指しています。世界の競合と競い合いながら、持続的にイノベーションを生み出す原動力は、“人財”にほかなりません。
「イノベーションの源泉は、やっぱり“ひと”」という信念のもと、社員一人ひとりの主体性を引き出し、個の力を高めるため、人事制度を抜本的に見直しました。

Q:従来制度では、どのような課題があったのでしょうか?

髙田 氏:従来は、日本的な雇用慣行の影響もあり、異動の多くが会社主導で行われてきました。その結果、社員が自らのキャリアに対して受け身になりがちでした。

しかし、予測不能な変化が続く現代において、国際的に通用するイノベーションを生み出すためには、社員一人ひとりが自律的に考え、主体的に行動することが不可欠です。
そこで私たちは、会社主導の仕組みから、「社員が自らの意思でキャリアを描き、挑戦を通じて成長できる環境」へシフトしました。キャリア形成のオーナーシップを個人へと移す改革を進めたのです。

Q:具体的には、どのような改革を行ったのでしょうか。

髙田 氏:新人事制度は、新たな人財マネジメント方針である「3つの個」を軸に構成しています。

1.個を描く:社員一人ひとりが自律的にキャリアを描く
2.個を磨く:挑戦を通じて主体的に学び、専門性を高める
3.個が輝く:最大限に力を発揮し、成長できる環境を整える

2025年1月からは、この方針に基づき、幹部社員に先行導入していた「ジョブ型人事制度」を一般社員にも拡大しました。あわせて、異動・配置は原則として「ジョブポスティング(手挙げ)」による仕組みへと転換しています。
さらに、シニア社員制度を廃止し「雇用上限年齢を撤廃」するとともに、挑戦による価値創出を加点評価する「ビヨンド目標」を導入するなど、多角的な改革を進めています。

ODYSSEY導入がもたらした大きな変化
社員の約3割が手を挙げる流動性

Q:「ODYSSEY」導入後の組織内の成果はいかがでしょうか。

上田 氏:ジョブポスティングは、社員の主体性を引き出す重要な制度です。従来、社員の異動は会社主導で行われていましたが、手挙げ制へ大きく舵を切りました。

制度を成立させるには、約2,000種類に及ぶポジションプロファイルを全社員に公開し、求められる役割やスキルを可視化することが不可欠です。社員自身が自分のキャリアを考え、意思決定できるプラットフォームが必要でした。
従来の人事システムやアナログ運用ではスピードや公平性、運用負荷に限界があったため、トレジャーキャリアの人事プラットフォーム「ODYSSEY」を導入しました。現在は全社的なジョブポスティング基盤として活用しています。

Q:数字やエピソードも教えていただけますか?

上田 氏:2025年度には、全社員の約3割、2,000名以上が応募し、社内異動の半数以上がジョブポスティング経由で実現しました。従来の異動比率と比べても大きな変化です。

髙田 氏:手を挙げる社員は、レジュメ(職務経歴書)を作成し、自分の強みや「やりたいこと」をそのポジションでどう活かせるかを言語化する必要があります。

大きな成果は、社員の意識変化です。キャリアを説明する責任を持つようになり、マネージャー側も「選ばれる部署」になるため、仕事の魅力や求める人財像を明確に発信するようになりました。
隣の同僚が自ら手を挙げて挑戦する姿を見ることで、周囲の社員も「自分も!」と触発され、職務経歴やスキルを棚卸しながら自らキャリアをデザインする健全な緊張感と流動性が組織内に生まれました。

Q:受け入れる側のマネージャー層にはどのような変化がありましたか?

髙田 氏:マネジメントの在り方が根本から変わりました。
これまでは「人が足りないから補充してほしい」と人事に頼めば、会社が誰かを割り当ててくれました。しかし、公募制では社員が自ら選んで応募しない限り、人は来ません。
そのため、「なぜ人が来ないのか」と嘆くのではなく、「自分たちの部署は何を目指し、どのような人財を求めているのか」を魅力的に発信する必要があります。スキルや仕事の面白さを言語化できるマネージャーの元には優秀な人財が自然に集まり、組織全体の活性化につながっています。

Q:新・人事制度における「定年の撤廃」はどのような意図があったのでしょうか?

髙田 氏:定年は、会社が一律に決めるキャリアの終点を意味します。60歳や65歳など、ゴールが決まっていると、無意識のうちに「あと何年だから、この役割でいいや」と守りに入りがちです。定年を撤廃することで、社員はいつまで会社で働くのか、自らキャリアを考え、前線での活躍や別の道を選ぶ必要が生まれます。

トレジャーキャリアを活用した、
人事プラットフォーム「ODYSSEY」

Q:「ODYSSEY」の特徴ついて教えてください。

上田 氏:ODYSSEYは、社員が自身のポジション情報を閲覧・募集から応募ができるプラットフォームです。日本の現場に合わせた操作性も考慮しており、単なる人事データベースではなく、社員自ら情報を発信し、マッチングを行う場として位置づけています。

Q:トレジャーキャリアの導入理由と評価ポイントを教えてください。

上田 氏:最大の決め手は、「キャリア自律」を実現できる機能性と柔軟性です。具体的には、以下の3点が評価されました。

1.ポジションの可視化と検索性:
数千のポジションプロファイルを社員が簡単に検索・閲覧でき、どこにどんなキャリアがあるのかが分かりやすく公開されている点。

2.スカウト機能:
応募を待つだけでなく、募集部門からも要件に合う人財を検索・アプローチでき、埋もれた人財の発掘が可能。

3.運用の柔軟性:
弊社では、組織改正のタイミングに合わせ「定期募集」と「随時募集」の2パターンでジョブポスティングを運用しています。また、心理的安全性を確保するため、手挙げ申請は上司承認が下りるまで非公開になる仕組みです。
こうした細かな業務要件に対応できるシステムであったことも、導入の大きな理由のひとつです。

時田 氏:導入後もカスタマイズ性とスピード対応が非常に助かりました。多くの会社では「こうしたい」と思っても形にするまでに大きなコストや時間がかかりますが、ODYSSEYは迅速に対応できました。

髙田 氏:海外製のシステムは機能が豊富ですが、日本のユーザーには直感的でない部分があります。ヒューマンシステムさんと協力し、UI/UXを調整。社員がストレスなくキャリア情報を更新できる環境を整えました。

データ蓄積による今後のタレントマネジメントの展望

Q:システムが稼働し、データも蓄積されてきているなかで、今後の展望についてお聞かせください。

上田 氏:ODYSSEYには、社員のスキルやキャリア志向、異動履歴などのデータが蓄積されています。今後はこれらを分析し、より精度の高いタレントマネジメントにつなげていきたいです。

髙田 氏:システムはあくまで基盤ですが、蓄積されたデータは宝の山です。AIなども活用し、個人と組織の最適なマッチングをさらに加速させ、世界で戦える組織づくりを支えていきたいと考えています。マッチング精度向上やフィードバック支援など、質を高める進化を期待しています。制度とテクノロジーを掛け合わせ、キャリア自律を一層前進させます。

※掲載内容は2026年2月取材時のものです。

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